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INTERVIEW

マニュアルを持たない「デザイン」で記憶に残るものを作りたい

鵜野澤 啓祐
株式会社ヴィーナス・スプリング 代表取締役

クリエイティブディレクターとして、企業プロモーションから新規事業の立ち上げ、地域活性化事業まで幅広い分野でご活躍をされている鵜野澤さん。 ご自身の原点やこれまでのお仕事のご経験から、一から作り出すモノの価値について伺いました。

クライアントが常に輝いていられるために何をすべきかを考えるという「デザイン」

仕事に定義があるとすれば、何かを形作ることだけがデザインではなく、企業やブランドに関わる人が輝きをもって仕事に従事しているか、ワクワク毎日過ごせているか、いつも意識をしています。 

ですので、ご一緒するパートナーとは、とにかく深く対話をすることを心がけていて、過去、現在、未来の話から一番大事なことは何か、お互いに理解し、時に再発見することもあります。昔の人がやっていたように、空を見上げて、星と星を線で結んで名前をつけストーリーを考える。そこに向かって一緒に旅に出るイメージです。 

デザインの定義の一つとして問題解決があります。往々にしてプロジェクトを始めるにあたり問題点に着目し答えを出したがりますが、明確な答えはあってもなくても良いのではないかと思っています。ポジティブなことが何らかの事情でネガティブに変わっているという場合もあり、そもそもクライアントが問題視していることが問題でない場合もあります。それは時に個性であったり、そこが全体のバランスとして必要な要素であるケースもあります。 

アーティストとしてデザイナーとしての原点は、海外に触れる中で見たもの・感じたコト

アーティストとしての原点は、21歳の時に上司と行ったNYでの出来事です。ニューヨーク近代美術館(以下、MoMA)のミュージアムショップには、色々な国籍・年代の方がいて、皆がメッセージカードを見ながら笑顔で会話をしていました。小さなメッセージカードが言語も国籍も超えて大きなことを伝えている場を目の当たりにし、アートの創造力の大きさに衝撃を受けました。その後、独立してすぐにMoMAにアプローチして以来30年間、クリスマスカードをデザインしています。また当時、オノヨーコさんの『グレープフルーツ』という詩集が売られていて、ほんの2~3行の文章がイマジネーションをとてもかきたてるということに、文章だけでも人の中にアートを作れるのだと刺激を受けました。 

デザイナーとしての原点は、イギリスのヴァージン・アトランティック航空のブランディングです。社長のリチャード・ブランソン氏は革命的な経営者でありスター的な存在でした。「空の旅×エンターテイメント」をテーマにしたとても革新的な会社で、ヴァージンレコードの所属ミュージシャンの音楽を機内で使う、マッサージサービスやバーラウンジを機内に作ってしまうなど、社員の斬新なアイディアをどんどん形にしていくのです。 

仕事の初めに提示されたことは、第一に社員の方が誇りに思えるものを作ってほしいということ、第二に他のどの航空会社よりもエンターテイメント性があり、ラグジュアリーなデザインにして欲しいということ。オーダーはその2点だけ。3年間ブランディングを手がけましたが、その間、楽しい想い出しかないです。こうなりたいと思う自分像を本気で想って決断をしていけば、こんなに人生は楽しくなるんだということを学びました。現実的なことを考えて夢のサイズを縮小するのではなく、どうすればそれを実現できるかを考えるというブランソン氏のスピリットは今でも自分のデザインに素敵な影響を与えてくれています。 

海外の方と仕事をしていて僕が思う彼らの日本に対しての印象は、2600年以上の歴史を経ても日本人の精神性が、きちんと受け継がれてきていることに魅力を感じているのだろうということです。例えば京都のような宗教観のある古都もあれば、東京のようなビル街もあるけど、どこにいても日本人のマインドの中に、昔から貫かれている「人を想う奥ゆかしさ」がきちんと受け継がれていることを海外の人は感じているのだと思います。そうした長い歴史から受け継がれている精神をベースに、新しいカルチャーを生み出す日本人に未来を感じているのではないでしょうか。 

店舗のリブランディングから新規事業の立ち上げ、町おこしまで チャレンジの日々

株式会社はせがわ様のプロジェクトについては、はじめ本業の仏壇専門店のリブランディングを担当しました。 

前段のようにクライアントとよく対話を重ねて感じたことは社員の方々の人間力の高さでした。彼らが店舗で迎えているお客様というのは、身の周りで死を経験するか、死を直前にとらまえている人たちです。その方々の精神状態を理解し接客できることはとても大きな強みだと感じました。 

まず考えたのが店舗の在り方です。今までのような仏壇専門店では特定の用事がないとお客様は入店しないので、その境界線をなくすために、現代のライフスタイルに合った家具調の仏壇を作り、日常でも使えるフラワーベースやお香、ろうそくなどの小物も揃えて仏壇の購入以外の日常でも店舗に来ていただける店舗にリニューアルしました。店舗のデザインも、木のぬくもりを感じる人が入りやすい和モダンなデザインにしました。おかげ様で沢山のお客様にご来店いただき、客数も売上も伸ばすことができています。 

次に、株式会社はせがわ様から仏壇製造・販売事業ではない新規事業のご相談をいただきました。どのような事業にするか悩んだのですが、仏壇専門店を長く営まれる中で仏教・神道に関する知識を皆さん豊富にお持ちで、そこから考えたときに日本の生活や宗教と深い関わりのある「お米」をテーマにすることを企画しました。「田の実の節句」と呼ばれる豊作を願って祈りをささげる行事があり、そこから転じて日ごろお世話になっている人に贈りものをする「頼みの節句」という2つの意味からなる「田ノ実」というお米関連製品を扱う店舗を新規事業として始めることになりました。「田ノ実」の店舗は1階にグロッサリー、2階はダイニング&カフェという構成になっており、1階には季節の室礼をする道具や、地域産品を全国から集めて販売しています。2階では旬の食材を使った具沢山のお味噌汁や厳選したお米のおむすびが食べられます。3階は産地の生産者をお招きし、産地やお米に関することを学ぶワークショップやイベントを開催するスペースになっています。  

近年は、徳島県那賀郡木頭地区の地方創生プロジェクト事業を手がけています。木頭(きとう)は徳島空港から車で3時間の山奥にある四国のチベットと呼ばれる村です。木頭柚子の名産地で、清流・那賀川が流れる大自然に囲まれた場所です。人口約1000人と過疎化が進むこの地域を「自然との共生」を軸に文化の力で“奇跡の村”をつくるため様々なプロジェクトを立ち上げています。 

今年2020年には「未来コンビニ」という名のコンビニをオープンしました。ここは木頭の未来を担う子供たちのためのコンビニで、店名は手塚治虫さんが語られた「子供は未来人」という言葉からインスピレーションを受けて名付けられました。併設されたカフェではワークショップなども行われています。それ以外にも、お年寄り同士、大人と子供のコミュニケーションの場として、また地産マルシェとして機能するなど、便利で機能的なコンビニとは違う、新しい人の交流の場・生活の拠点として活用されています。 

自然と文化、アートとデザイン、教育を共生させることで、この村の原点を作っていきます。 

特別な「想い」を込めた逸品は人の価値観すら変えてしまう TUKURIBAを通じてそんな体験をしてほしい

一から作りだすモノは、大量生産で不特定多数の人に向けられるものとは異なり、想いを強く深く込めることができます。受け手の記憶に強く残り、そこには特別な価値が存在します。 

特に伝統があるものは、過去と今の境界線を越えたところにあるものとして特別な高級感を感じます。伝統的なものを現代の人にも共感いただけるよう、デザインをアップデート、チューニングすれば、日本国内だけでなくて国境も超えて想いを伝えられる逸品になっていくと思います。 

モノには形に残るものと残らないものがあります。人の記憶に残るものには常に特別な「想い」が宿っています。例えばラブレターは手紙として形が残ります。それを見るたびにその人のことやシチュエーションを思い出します。逆に料理や花火や祭りなどは形に残らないけど、それが自分にとって特別なものであればそのときの味や情景は記憶に残ります。 

「想い」が深くなり相手に伝わると、受け手の価値観を変えることにも繋がります。例えば誕生日に一生に一度しかない特別なプレゼントを受け取れば、そこに命の尊さを感じることができ、今まで知らなかった自分に出会えると思います。一つ一つ想いのこもったモノを作って贈り合うことで多くの人にそういった体験をして欲しいです。

鵜野澤 啓祐
株式会社ヴィーナス・スプリング 代表取締役

コンセプトの立案からデザイン構築まで一気通貫したクリエイティブを行う。ニューヨーク近代美術館のクリスマスカードのデザイン、Virgin Atlantic航空のブランディングなどグローバルな活動を活かした新たな視点で国内外にビジネスを拡げている。職人の技とデザインを融合したブランドRINのクリエイティブディレクションなど伝統工芸に関わる仕事も多数。徳島県木頭地区のデザイン統括監督として地方創生にも力を入れている。

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