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輪島キリモトの挑戦―先人達のがんばりを胸に新しいことに挑み続けている工房

桐本泰一
輪島キリモト 代表

輪島キリモトの挑戦―先人達のがんばりを胸に新しいことに挑み続けている工房

桐本泰一
輪島キリモト 代表
創業から200年以上、石川県輪島の地で輪島漆器と木製品を製造してきた輪島キリモト。7代目の桐本泰一さんは、その歴史・実績に甘んじることなく、自らデザインを手がけながら常に新しいことにチャレンジしている。 そんな輪島キリモトが手がけたのが、全世界に広がる『ポケットモンスター』シリーズを生み出した㈱ゲームフリークの周年記念品。プロジェクトの裏話から、7代目桐本氏のこだわり、今後の挑戦について伺った。

創業は江戸時代!7代にもわたる輪島キリモトの歴史 ―下請けから一貫生産体制を築くまで

輪島キリモトの創業は、初代桐本久之丞(きゅうのじょう)が輪島市で漆器製造販売業を始めた1700年代後半に遡ります。

その後、3代目の桐本久太郎が、明治20年から大正初期ぐらいまで輪島漆器業界の小規模漆器店、各分野の職人をまとめる漆工労働組合で組合長を長く務め、職人の待遇改善に貢献しながら家業も熱心に広めていったとされています。

4代目まで輪島塗の漆塗工房として営業をしていたと言われていますが、昭和の初め5代目久幸の代に輪島塗の素地となる「朴木地」を取り扱う木地屋に転業し、家具膳の特殊な脚(猫脚、像脚、蝶脚など)を専門に木を刳る事が得意な木地屋として地位を確立しました。

その後、私の父、6代目俊兵衛の代は高度成長期で、輪島塗だけでなく全国の伝統工芸品に多くのニーズがあった時代でした。特に売れ筋だったのが、和室用の座卓などの家具です。これまで御膳、箱モノ、板モノなどを作っていたのが、サイズ感の大きな家具を作るのにそれに合わせた設備、職人が必要になる。それを6代目のときに整備しました。この時代に、家具という大きなサイズでしかも猫足などの複雑な形状を形づくるノウハウが輪島キリモトに蓄積されていったのです。

そして今、7代目として私(桐本泰一氏)が引き継いで33年経つわけです。私は大学で工業デザイン・プロダクトデザインを専攻していたのですが、そこで教授に言われたことがきっかけとなり今の工房を継ぐ決心をしました。大学で学んでこと、社会人になって経験したことから、新しい漆塗りの形を常に探求し続けたいと思いが強くあり、デザインから製品の仕上げまで一貫して担う体制を私の代から作っています。

こだわりは、新しいことを考え常にチャレンジすること

私のこだわりは、まずはオーダーに対して断らないということ。最初から断ると進歩がないですよね。あとは、うちにはどんな形状も形にできる腕のいい職人がたくさんいるので、私がデザインを考えて試作品を作り溜めておいてもらい、常にお客様に提案できるものをストックしておくようにしています。事前にアイディアをもっておくとお客様の面前にたって説明させていただくときに、話がずしっと伝わる気がします。現場主義という言葉がどこでもありますけれども、お客様との接点を大切にすることが次の創作のヒントとなると考えています。

あとは、大学時代の教授の言葉をいまだに大切にしていて、モノをつくるときにはまず初めに「何(What)を作るべきか」を考えるようにしています。デザインというとどうしても先にHOWを考えてしまいがちですが、そうすると手段ばかりを考えてしまいますから。今でも輪島塗の中で何ができるのか、何が新しいのか、アンテナを張り巡らせて「何を作るべきか」を常に考えるようにしています。

伝統工芸の新たな可能性を感じた味噌汁椀プロジェクト ―㈱ゲームフリーク様 30周年記念ギフトの制作

㈱ゲームフリーク様の30周年記念ギフト制作のお話をいただいたときは、ポケモンという長く愛されているキャラクターを生み出し、全世界に商品がいきわたっている会社からの依頼でしたから素直に嬉しいお話だと思いましたね。三十路(30周年)で味噌汁()(みそじ)椀を作るというのもゲーム会社らしくユーモアがあるなと思いました。

製品の制作をお請けするに当たっては、ご発注数が多かったので木地を調達するところから調整が必要でした。協力していただいている椀木地屋さんと相談しながら、どのようなデザインで、どうすれば納期に間に合わせられるか相当考えました。

また味噌汁椀の底面にクライアントの会社のロゴマークを入れたのですが、少しかすれたようなデザインだったので、それを忠実に再現するのもなかなか難しいものでした。ちょっとしたことなのですが細かな対応をすることで仕上がりが全く異なりますのでとてもこだわった部分です。

納期もなかなか厳しく、これまでも長く連携している漆塗職人さんにも手伝ってもらう必要があったのですが、普段からの信頼関係があったからこそ、皆さんに快くお手伝いいただくことができ、さらにはお客様にも喜んでいただけたということで本当にいいプロジェクトになったと感じています。

商品納品後に、㈱ゲームフリーク様に直接お礼に伺いました。社長様が非常に満足していて、作った製品を贈呈したお取引先・社員の皆様にも喜んでいただけているというお話を直に伺ってそれはうれしかったですね。

それにこれからの可能性を感じました。㈱ゲームフリーク様のように、世界に誇る日本のアニメ・ゲーム業界の先陣に立っているような会社が、日本の伝統工芸に興味を持っていただけたということで、今後もこのような新しい業界の方々と伝統工芸の業界に身を置く我々のような人間が、「日本のモノづくり」をキーワードに、連携して新しい価値を生み出せるのではないか、それが若い人にもこの業界を知ってもらえるきっかけになるのではないかと感じたのです。

輪島キリモトの新たなチャレンジ

今後も、輪島キリモトの可能性を信じ、自分たちにできることは断らずにどんどんチャレンジしていきたいというのはこれまでと変わりません。さらに、次の世代にこれまでの技術・伝統を引き継ぎながらどう新しいモノを生み出していくかについて考えていきたいと思っています。その中でも特に建築内装や家具・インテリア商材には今まで以上に力を入れていきたいですね。

江戸後期から漆器業を営んだ初代から四代目、昭和初めから朴木地業に転業した祖父、父、そして職人達がモノを創り出す事に頑張ってくれたおかげで、今の輪島キリモトがあると思っています。そういった輪島キリモトの土台をさらに強化しながら、日々新しいことにチャレンジしていきたいと考えています。

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